Jin Nakamura log

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続編から読む。

酔い覚ましに立ち寄った阪急京都線大宮駅の地上階にある本屋の平積みコーナーで、ふと目に留まった文庫本のタイトルは「冬虫夏草」。フユムシナツクサ…いやトウチュウカソウ…か、どちらにしても??。この虫なのか花なのかビミョーな感じの題目が妙に気になり手に取って数行黙読し、なんかイケそうな気がしてレジへ直行。そこから徒歩4分のホテルにもどり結局数ページ読んでそのまま寝てしまい、きちんと読み通したのは長野に戻った1週間後だった。

おそらく明治期の、ある物書きの日常が描かれているに過ぎないのだが、その日常がどこかヘン。現代のぼくらから見ると本当はだいぶヘンなのだろうけれど、おそらく筆者の品格のあり細部にまで心を砕いた言葉の紡ぎ方故だと思うが、“そんなこともあるよね…”と思ってしまう不思議。主人公が印象深い邂逅を果たす河童の少年も、天狗も、幽霊も、赤龍も、そして鈴鹿山中で宿を営むイワナの夫婦も。言葉にするとやはりオカシイ。スピリチャルといえばそうかもしれないが、なんか平凡なのである。平凡で美しい霊性。少し以前に読んだ泉鏡花の「高野聖」とはまたひと味ちがうのだなぁ。

“目に見えないモノ”をぼくらはどう処理するのか。友人の尊敬するお坊さんは真剣な表情で「信じるというようりそのように“理解”している」と言った。「ある」と思った瞬間にソレは「存在する」と、妖怪を生涯描き続けた漫画家のおじいさんは言っていた…ような記憶がある。そして何も見えない僕は「あってほしい、いたらいいな…」と思っている。

結局モノノケも神さんも仏さんもだれも見たことないじゃん!…実証的世界ではそういことになっている。でもね一方で「なんで人を殺しちゃいけないの?」の答えを倫理でも常識でもなく「祟りがあるからだよ」って言われたらとりあえず震え上がるほど納得しちゃう。全編「花」のなまえのタイトルで綴られる主人公の風変わりな日常は、たとえば現実的な閉じられた世界も、あるいは暗闇のなかでとらわれる禍々しい不安な感情も、そのどちらも穏やかに解きほぐしてくれるような気がするのです。

このささやかな冒険譚は実は続編であったことに読み終えてから気づく。読み始めてどうも設定がイマイチ不明でお話においていかれてる感があったのはそのためであった。しかし続編から読むというのはわるくない。逆に詳細な説明をさきにされてしまうと興ざめということもあるし。かのスターウォーズもエピソード4から始まってるしね。

また脇役たちの話す京言葉も1週間滞在した旅の風情も重ね合わさり物語のリアルな日常に介入できたし、余談だが話のなかに自分が住まう信州佐久のエピソードが盛り込まれており不思議な縁を感じてしまった。何れにしても我がココロの10冊にエントリーしたい1冊であるぞ!たぶん。

176025

 

東京銭湯考

少し以前のことだが、展覧会準備のため珍しく都内のビジネスホテルを利用した折り、ホテルの宿泊券に近くの温泉チケットがついていたので利用してみた(実はめっちゃ温泉好き)。都内で温泉のイメージはなかったのだが最近は大手町あたりの新設超高級ホテルでも温泉がでるとかで、とにかく関東ローム層は深くさえ掘ればでるらしい。

さて件の銭湯は池上線蓮沼駅近くにあるその名も「はすぬま温泉」。ホテルから徒歩5分程度とあったが土地勘もない深夜の下町、加えて渡されたいい加減な地図。案の定10分歩くが到着しない。折しも前方の暗闇からグッドタイミングでお巡りさんが自転車にのって現れたのですかさず呼び止め尋ねてみる。フツーなら逆に職質されてもおかしくないシチュエーションなのだが今回は先手を打って聞いたった。僕を良心的な一般市民と認識してくれたらしくきわめて丁寧に銭湯の前までご案内いただき助かった次第。お務めご苦労様でした。

たしか時刻はすでに日をまたごうとしていたのだが深夜1時まで営業ということで、脱衣場に入ってみるとさすがに誰もおらずガラスを隔てた洗い場の方に人ひとりの影が見えるのみ。スッポンポンになって中に入るとおじさんが一人せっせと泡まみれになってカラダを洗浄中。さて僕もと蛇口の前に座って気がつく。シャンプーもボディーソープも置いてない…そっかー銭湯って自分で持ってくんのかー…。僕の地元の立ち寄り温泉はほぼ100%その類いは全ての鏡の前に用意されていてタオル1本で行っても全く問題ないんだけど、そっかー銭湯て子どもの頃行ったきりだもんなー…。仕方がないので白湯のみで体を流し湯船につかる。

もちろんホテルのユニットバスなんかとは比べるべくもなく心地よいわけだが、なんとここの源泉は黒い(黒くない湯船もある)。あとで番台のお兄ちゃんに聞いてみたら海藻やらなんやらいろんな成分が交じってこんな感じらしい。あ、ちなみに番台は脱衣所の中には面しておらず入り口のロビー、男湯女湯の暖簾の前にある。なので番台さんが若いお兄ちゃんでも女性客はぜんぜん大丈夫な感じ。小学生の頃は番台さんて特権だよねー、なんか資格とかいるんかなーなんてて思ってましたが。

そんなわけで黒いお風呂に入ったり、泡ぶくのお風呂につかったり、ちょっとした露天風呂もあったのであっちこっちフラフラしながら、とわいっても酔いを冷ましながらのせいぜい30分。ま、それはいいんです。ナカムラの湯のつかり方なんかどうでもいいんですが、僕が洗い場に入ったときに体をゴシゴシしていたおじさん、僕がもういいでしょうと脱衣に場戻るまでのその間ずぅーーーっと洗い続けておりましたのです。たまたま同じ湯船につかろうものなら「お近くなんですかぁ?」などと通り一遍の一言もかけようものをと思っていたがまったく接点なし。一体どこを洗えばそんなに時間がかかるのだろう。60年代の長髪ヒッピー兄ちゃんだったらもしかしたらリンスしたりとかトリートメントしたりとかそりゃそこそこお時間も必要かもだが、頭髪の感じもそれほど手間がかかる雰囲気でもなかったし。

そして僕は思った。世のオッサンたちは、やれオヤジ臭がどうの加齢臭がどうのと揶揄されて久しいけれど、実はもしかしてめっちゃキレイ好きな種族なんじゃないかと。アライグマなみの習性でマジで一皮剥けるほどの清廉潔白を日々旨としているのではないかと。これはオヤジの見方をかえた方いいんじゃないかと、ていうかむしろオヤジを見習え!

濡れたアタマを渇かそうと大鏡の前のドライヤーを握りしめた瞬間「3分30円」の文字が目に入る。ポケットには湯上がり用のフルーツ牛乳代のコインしか入ってなかったので夜風で渇かすことにして脱衣場を出る。振り返るとおじさんは水滴で曇ったガラスの向こうの定位置をまだ動いてはいなかった。

DMはだいぶ前にできてたんだけどまたまた告知が遅くなってしまいました。

T-shirt50 JIN NAKAMURA EXHIBITION 2017
2017,6月6日(火)→ 6月12日(月)10:00am→5:00pm
四代目・町家ギャラリー「伊助」
〒602-8463 京都市上京区元誓願寺通り浄福寺西入革堂町447 tel075-451-5303
(千本今出川南へ二筋目東へ内藤医院手前)
●市バス〈千本今出川〉下車(6、10、46、50、51、55、59、101、102、、201、203、206)

多彩なアート表現活動を続けて30余年。美術家ナカムラジンの
今回描き下ろし手描きTシャツ50点。
オシャレでキッチュな、世界で一つだけの貴方のjin’sTシャツを
是非どうぞお選びくださいませ。
…..
と、DMには書いてある。

なわけでこの度Tシャツ50枚描きました。もはや修行か思われるほどの勢いで慣れない綿の生地に描き続けたわけですが、それを後輩の画家にドヤ顔で話したところ「50枚くらいじゃ修行っていわないんじゃないかなぁ…」て。こいつぅ〜…俺だってナー、日々あんなことやこんなこと、そんなことやどんなこと…しながらの50枚ぞ!と一瞬反論に転じようと思いましたが、ちょっと冷静に考えてみると、確かに。修行ってのはそんなんじゃないか。かの空海は室戸岬の波打ち際の洞窟に籠もり虚空蔵求聞持法にてその真言を一日1万回を100日間計100万回唱えることで尋常じゃない記憶力を得たというし。桁がちがうかたかが50枚と謙虚な僕は納得。ま、されど50枚。それはそれで自分的には多少の発見やら面白みも見つけたりして今後はTシャツ作家として暗躍するのも面白かろうなどと一瞬よからぬことも考えちゃいそうでしたが、これ以上引き出し増やしてどうすんの。基本的にこれからは引き算でいこうと思っていた矢先なんだからさ。ということでこの度限定のナカムラTシャツ、夏本番直前のしっとりした京都でお楽しみください。
陶器とか本画作品も少し持っていきます。
17601