Jin Nakamura log

東京銭湯考

少し以前のことだが、展覧会準備のため珍しく都内のビジネスホテルを利用した折り、ホテルの宿泊券に近くの温泉チケットがついていたので利用してみた(実はめっちゃ温泉好き)。都内で温泉のイメージはなかったのだが最近は大手町あたりの新設超高級ホテルでも温泉がでるとかで、とにかく関東ローム層は深くさえ掘ればでるらしい。

さて件の銭湯は池上線蓮沼駅近くにあるその名も「はすぬま温泉」。ホテルから徒歩5分程度とあったが土地勘もない深夜の下町、加えて渡されたいい加減な地図。案の定10分歩くが到着しない。折しも前方の暗闇からグッドタイミングでお巡りさんが自転車にのって現れたのですかさず呼び止め尋ねてみる。フツーなら逆に職質されてもおかしくないシチュエーションなのだが今回は先手を打って聞いたった。僕を良心的な一般市民と認識してくれたらしくきわめて丁寧に銭湯の前までご案内いただき助かった次第。お務めご苦労様でした。

たしか時刻はすでに日をまたごうとしていたのだが深夜1時まで営業ということで、脱衣場に入ってみるとさすがに誰もおらずガラスを隔てた洗い場の方に人ひとりの影が見えるのみ。スッポンポンになって中に入るとおじさんが一人せっせと泡まみれになってカラダを洗浄中。さて僕もと蛇口の前に座って気がつく。シャンプーもボディーソープも置いてない…そっかー銭湯って自分で持ってくんのかー…。僕の地元の立ち寄り温泉はほぼ100%その類いは全ての鏡の前に用意されていてタオル1本で行っても全く問題ないんだけど、そっかー銭湯て子どもの頃行ったきりだもんなー…。仕方がないので白湯のみで体を流し湯船につかる。

もちろんホテルのユニットバスなんかとは比べるべくもなく心地よいわけだが、なんとここの源泉は黒い(黒くない湯船もある)。あとで番台のお兄ちゃんに聞いてみたら海藻やらなんやらいろんな成分が交じってこんな感じらしい。あ、ちなみに番台は脱衣所の中には面しておらず入り口のロビー、男湯女湯の暖簾の前にある。なので番台さんが若いお兄ちゃんでも女性客はぜんぜん大丈夫な感じ。小学生の頃は番台さんて特権だよねー、なんか資格とかいるんかなーなんてて思ってましたが。

そんなわけで黒いお風呂に入ったり、泡ぶくのお風呂につかったり、ちょっとした露天風呂もあったのであっちこっちフラフラしながら、とわいっても酔いを冷ましながらのせいぜい30分。ま、それはいいんです。ナカムラの湯のつかり方なんかどうでもいいんですが、僕が洗い場に入ったときに体をゴシゴシしていたおじさん、僕がもういいでしょうと脱衣に場戻るまでのその間ずぅーーーっと洗い続けておりましたのです。たまたま同じ湯船につかろうものなら「お近くなんですかぁ?」などと通り一遍の一言もかけようものをと思っていたがまったく接点なし。一体どこを洗えばそんなに時間がかかるのだろう。60年代の長髪ヒッピー兄ちゃんだったらもしかしたらリンスしたりとかトリートメントしたりとかそりゃそこそこお時間も必要かもだが、頭髪の感じもそれほど手間がかかる雰囲気でもなかったし。

そして僕は思った。世のオッサンたちは、やれオヤジ臭がどうの加齢臭がどうのと揶揄されて久しいけれど、実はもしかしてめっちゃキレイ好きな種族なんじゃないかと。アライグマなみの習性でマジで一皮剥けるほどの清廉潔白を日々旨としているのではないかと。これはオヤジの見方をかえた方いいんじゃないかと、ていうかむしろオヤジを見習え!

濡れたアタマを渇かそうと大鏡の前のドライヤーを握りしめた瞬間「3分30円」の文字が目に入る。ポケットには湯上がり用のフルーツ牛乳代のコインしか入ってなかったので夜風で渇かすことにして脱衣場を出る。振り返るとおじさんは水滴で曇ったガラスの向こうの定位置をまだ動いてはいなかった。

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