Jin Nakamura log

作品解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「応化利生」
 昔、信濃の国、小県の里に心が貧しい老婆がいました。ある日、軒下に布を干していると、どこからか牛が一頭やってきて、その角に布を引っかけて走り去ってしまいました…とは有名な説話「牛に引かれて善光寺参り」の一節。江戸時代、善光寺信仰と共に広く全国に知られることとなるこのお話の中で、その後老婆は牛が観音菩薩の化身であることに気付き、菩提の心を起こして信心し、やがて極楽往生を遂げます。
 仏教ではまず真理そのものとしての如来が存在し、その真理を人々に教え解く菩薩、そしてそれでも救われない者たちのためには憤怒の形相をもってあたる明王までが控え、これら三様全てが仏の顕われ方であると言う考え方があるようです。このように世界の他の宗教では考えられないほどの救済キャラの豊富さを誇りますが、中でも件の老婆に手を差しのべた観音菩薩はさらに全ての衆生を救わんと、その変身ぶりはまさに多彩。救うべき相手の性格や考え方、社会的地位などにも細やかに対応して事にあたる姿勢は、誰一人も洩らさず救わんとする覚悟の顕われとも言えるでしょう。
 「応化利生」…仏や菩薩が衆生を救うためにいろいろに姿を変えて出現し、利益を与えること。となれば草木、虫魚、動物に至るまで、我々は絶えず救いの芽に囲まれている生きているということか。にもかかわらず日々さして褒められものしない素行をくり返す我が身に反省しきり。
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