Jin Nakamura log

花小金井

師匠のお宅はその昔広重が描いた富士三十六景 武蔵小金井、多摩川上水の桜の名所の近くであった。今に残る花小金井という地名も、そのあたりに因んだものか。路地に顔を出す白梅などはすでに満開、桜もボチボチという具合で我が山麓とはえらい違いだ。わざわざ駅まで迎えに来てもらった彼と道すがらそのあたりの土地の昔話などしつつ15分ほどでご自宅へ。門を入るとすぐ左手に手づくりの鳥小屋が。現在は網の張られた物置といった風情だが、実はこれ以前はカラス小屋であった…と合点する。思い出した。僕が初めてこの人と銀座一丁目の画廊で出会ったとき(10年ほども前だろうか)「カラスを飼っている絵を描くおじさん」として紹介されたのだ。普通の人はあまりカラスを飼ったりしないので、酔狂な画人といったところで適当に納得し、その理由など特に聞いたりはしなかったが、せっかくなので10年ぶりに尋ねてみると、要は家の近くで群れにはぐれて足を痛めていたカラスを一時期引き取り面倒を見ていたとのことだった。ツルならまだしも「カラスの恩返し」なんてものはあるものだろうかと、つい下世話な考えをめぐらす自分をいさめつつアトリエに上げてもらう。

今回はまずはご挨拶までと伺った次第だが、そんなポカポカな昼下がりから夕方まで先生の描き続けてきた軌跡(たぶんほんの一部だろうけど)をたどりつついろんな話をお聞きしたり、させてもらったり。正直いうと僕はおそらく日本画というものの技術を学びたくて門を叩いたのだろうけれど、その数時間で思い至ったのは最も学ぶべきことになるのはやはり作家としての姿勢なんだろうなと。もちろん自分らしくとか、自分のペース…みたいなもんもあるにはあるが、彼の言葉やたたずまいが穏やかであればあるほど作家として我が身には全く足りない描き手としての凄みのようなものを改めて感じないわけにはいかないのだ。来てみてよかった。

さてこの件のブログでのレポートは一応今回のみとする。これは師匠との約束…以後は秘密の特訓…てのはウソ。彼はとてもシャイな人なので。それに特にレポートしなくても、もし自分に学べる資質があるのなら自然に作品や自分自身のふるまいに現れることだろう。いずれにしてもこちらの問題だ。

*写真右は蓮の葉、葉脈の数が正確に記録スケッチされている。

ということで次回からは実技に入ります。ワクワク…。

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